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第63話 1600年元日

last update تاريخ النشر: 2026-10-27 10:17:33

第63話 1600年元日

 慶長五年、西暦一六〇〇年の正月元日。

 新しい年の朝を迎えた茨城城では、日の出とともに太鼓が打ち鳴らされた。

 八重の堀に囲まれた巨大な城郭の門が開かれ、正装した大名や家臣たちが次々と登城してくる。三ノ丸から本丸へ続く道には日の丸と菊水紋の旗が並び、天守最上階の金箔瓦が朝日を受けて輝いていた。

 正一位関白、太政大臣、征夷大将軍、禁裏御守衛総督を兼ねる藤原朝臣三上龍之介正圀は、三十八歳となっていた。

 本能寺の変が起きた日に、この世界へ転生してから十八年。

 織田信長を救い、天下統一に協力し、織田宗家との戦を経て自ら幕府を開いた龍之介は、今や日本国の政を一身に担う立場となっていた。

 本丸御殿の大広間には、三上家の一族と有力大名、幕府の重臣たちが勢ぞろいしていた。

 龍之介の隣には、三十五歳となった正室の歩美が座っている。

 織田信長の娘として生まれ、龍之介の正室として戦乱を乗り越えてきた歩美は、今では三上家の奥向きをまとめる揺

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    第65話 龍之介の野望 龍之介には、天下統一や国民皆三食の実現とは別に、胸の奥へ秘めてきた大きな野望があった。 それは、滅びゆく文明と文化を後世へ残すことである。 前世の龍之介は、古代文明に強い関心を持っていた。なかでも特に心を引かれたのが、中南米に栄えたマヤ文明であった。 巨大な神殿、精密な暦、独自の文字、高度な天文学。 しかし、その多くはスペイン――イスパニアによる侵略と支配の中で失われていく。マヤの民そのものが消滅するわけではないものの、独立した国々は次々と征服され、神殿は破壊され、長い年月をかけて記された書物も焼かれてしまう。 龍之介は、その未来を知っていた。「すでに失われたものを取り戻すことはできぬ。だが、これから失われるものならば救えるかもしれぬ」 茨城城の一室で、龍之介は世界地図を広げていた。 傍らには正室の歩美、筆頭家臣の影鷹、家老総代の柳生宗矩が控えている。「御主人様は、海の向こうにある文明を救おうとお考えなのですか?」 歩美の問いに、龍之介はうなずいた。「救うなどという大それたことができるかは分からぬ。ただ、文字や書物、技術や信仰を記録し、後世へ残したい。侵略されようとしている者たちが望むならば、守る力も貸してやりたいと思っておる」「そのマヤなる国は、どれほど遠いのでございましょう」「正確な距離は、儂にも分からぬ。海を越えた、遥か東の大陸じゃ」 龍之介は地図の上で日本から東へ指を滑らせ、太平洋の中央付近で止めた。「まずはハワイへ向かう。そこで補給拠点を築かなければ、北米大陸まで蒸気船を進めることは難しい」 蒸気機関鉄甲船は風がなくても航行できるが、どこまでも進めるわけではない。大量の石炭と真水、乗組員の食料を必要とする。 龍之介の船は帆走と蒸気機関を併用できるものの、未知の海を横断するには中継地が欠かせなかった。 そこで龍之介は、十隻の蒸気機関鉄甲船をハワイへ派遣することにした。 船には石炭や食料だけでなく、友好の証しとなる絹

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    第62話 台湾・天津・上海・香港 明国との不可侵条約が締結され、羽柴台湾国が滅亡したことにより、日本国は天津、上海、香港、台湾という新たな海外領地を得た。 しかし、土地を手に入れただけで統治が終わるわけではない。 龍之介は、天津、上海、香港へ派遣する奉行や城代を集めて告げた。「戦に勝つだけなら、優れた武器があればよい。だが、新たに加わった土地を栄えさせるには、そこに暮らす者たちの協力が必要となる。日本のやり方を一方的に押しつけるのではなく、その土地の気候、習慣、商いを学べ。ただし、港を守る備えだけは決して怠ってはならぬ」 三つの海外領地には、日本様式の海城が築かれることとなった。 城の設計を任されたのは、茨城国や堺、肥前名護屋城の築城に携わった大工や石工たちである。そこへ現地の技術者や職人も加えられ、日本の城郭技術と明国の建築技術を組み合わせながら工事が進められた。 三城に共通して建てられたのは、外観七層、内部六階の巨大な天守である。 屋根の両端には黄金の鯱が載せられ、最上階の屋根には、日本国の船印としても用いられている日の丸の旗が掲げられた。 白壁と黒漆塗りの板壁、幾重にも重なる瓦屋根を持つ天守は、遠く海上からでも見ることができた。 それは日本国の威厳を示すと同時に、交易船に港の場所を知らせる目印にもなったのである。 ただし、三つの城がまったく同じ造りだったわけではない。 天津城は、川と海が交わる場所へ築かれた。 冬の寒さと川の増水に備えるため、石垣の内側には厚い土塁を設け、河口には堤防と水門を築いた。港から城内へ続く運河も掘られ、船のまま物資を倉へ運び込める構造となっていた。 城の北側には広い練兵場と砲台が置かれ、明国側から大軍が押し寄せた場合にも備えられている。 上海城は、長江から運ばれた土砂によってできた軟らかな土地へ築かれた。 そのまま巨大な天守を建てれば、重みに耐えられず傾くおそれがある。そこで地中へ多数の杭を打ち込み、その上へ石を積んで強固な土台を造った。 水路の多い土地柄を生か

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    第60話 明国からの使者 羽柴秀吉の死後、二代目羽柴台湾国王となった羽柴秀次は、養父の遺志を果たすために行動を開始した。 羽柴家の悲願は、日本へ戻ることである。 だが、羽柴台湾国が保有する蒸気機関鉄甲船は十五隻ほどにすぎない。それに対し、三上龍之介正圀が率いる日本国には、大小合わせて三百隻を超える蒸気機関船があった。 正面から戦えば、台湾を出港した直後に撃破されることは明らかである。 そこで、黒田官兵衛が目をつけたのが明国だった。 急速に国力と海軍力を高める日本国を、明国もまた脅威と考えていた。 日本の蒸気機関鉄甲船は、風向きに関係なく海を進むことができる。搭載されている大砲も、明国の火砲をはるかにしのぐ射程と威力を持っていた。 さらに、日本は明国を中心とする朝貢体制へ加わろうとせず、あくまでも対等な国として交易を求めている。 明国の宮廷では、日本の力がこれ以上大きくなる前に弱体化させるべきだという声が強まっていたのである。 日本へ戻りたい羽柴家と、日本を弱らせたい明国。両者の利害は一致した。 台湾城で開かれた評定には、秀次をはじめ、黒田官兵衛、石田三成、浅野幸長らが集まっていた。その正面には、明国から派遣された使者が座っている。「大明皇帝は、羽柴台湾国との同盟をお認めになられた。共に倭国を討ち、東海の秩序を取り戻すのである」 明国の使者は、同盟相手を前にしても尊大な態度を崩さなかった。 その物言いに三成の眉がわずかに動いたが、秀次は表情を変えずに答えた。「明国が日本を攻めるのであれば、我ら羽柴家も呼応いたしましょう。ただし、三上龍之介正圀を討った暁には、羽柴家が日本へ戻ることを認めていただきたい」「羽柴家が大明皇帝へ忠節を示すなら、相応の土地を与えることも検討されよう」 使者は、あくまでも明国が羽柴家へ恩賞を与えるのだと言わんばかりだった。 官兵衛は、明国の本心を見抜いていた。 明国にとって羽柴家は、日本を内側から崩すための駒にすぎない。日本に勝利した後、羽柴

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